Works実績紹介
【地域文化・構造設計】つくり、纏い、踊る。鹿踊を体験する「シシガシラキット」
岩手県に受け継がれる郷土芸能「鹿踊(ししおどり)」を、つくることから体験するためのクラフトキットです。京屋染物店様が運営する地域文化継承イベントのために、鹿踊で用いられる鹿頭を、紙製の「シシガシラキット」として開発しました。弊社は、紙器の加工技術を応用した企画・構造設計を担当。参加者が自由に絵付けし、自ら組み立て、最後には頭に纏って踊る。鹿踊を「見る」だけでなく、自分の身体を通して感じるための体験ツールとして形にしました。
1. プロジェクトの背景とコンセプト
鹿踊は、地を踏みしめて災いを祓い、豊穣や地域の平穏を願う、岩手県各地に伝わる郷土芸能です。地域によって衣装や踊りが異なり、それぞれの土地の歴史や誇りが表現されています。2021年、地域文化を支援する縦糸横糸合同会社様と、岩手県一関市で染め物や祭り衣装を手がける京屋染物店様によって、鹿踊を鑑賞し、実際に踊る体験イベントが企画されました。そのワークショップで使用する体験キットの一つとして、弊社が開発したシシガシラが採用されています。初回のキットは大人から子どもまで楽しめるサイズ展開で、段ボール太鼓や九曜紋柄のマスクとともに用意されました。開発にあたって求められたのは、鹿踊の文化や装束が持つ印象を損なわず、誰もが親しめる形へ置き換えることでした。同時に、参加した子どもたちにとって、難しい工作ではなく、つくる時間そのものが楽しい思い出となることも重要でした。伝統的な鹿頭を単純に小さく再現するのではなく、文化の特徴を残しながら、自由に色を塗り、自分だけのシシをつくり、実際に纏って踊れるクラフトキットを目指しました。
2. 紙器の加工技術を応用した構造設計
シシガシラキットは、平面の紙を組み立てることで、鹿の顔や角を備えた立体的な被り物になります。構造設計では、完成した姿の再現性だけでなく、参加者が迷わず組み立てられることを重視しました。特に子どもが参加するワークショップでは、工程が複雑すぎると、絵付けや踊りを楽しむ前に集中力が途切れてしまいます。そのため、部品数や差し込み方、折りの方向などを検証し、組み立ての難度をできる限り下げました。また、装着した状態で身体を動かすことを前提に、重さ、視界、頭部への収まり方、角の見え方にも配慮しています。自由にペイントできる余白を設けることで、同じ構造から、一人ひとり異なるシシが生まれる設計としました。2021年のイベントでは、参加者がオリジナルのシシガシラを組み立てて彩色し、踊りを練習した後、鹿頭と太鼓を身につけて骨寺村荘園を練り歩きました。つくる、纏う、踊るという一連の体験を通じて、鹿踊が生まれた背景に思いを馳せるワークショップとなっています。
3. イベントとともに進化する被り物
シシガシラは、最初に完成した一つの形で終わったわけではありません。イベントの内容、参加人数、対象年齢、制作時間などに合わせて改良を重ねてきました。鹿頭の特徴をより簡潔に表現したお面型のモデルや、保管・輸送時に場所を取らず、イベント向けの中量生産にも対応しやすいコンパクトなモデルなど、用途に応じた形が生まれています。イベントも形を変えながら継続しており、これまでに多くの参加者が弊社の被り物を実際に身につけ、「シシになる」体験を重ねてきました。完成品を見るだけではなく、自ら手を動かし、身につけ、踊ることで、地域文化を自分に近いものとして感じられる仕掛けになっています。本プロジェクトは、包装資材のために培ってきた、紙を立体化する設計力や量産加工の知見を、文化体験のための道具へ応用した事例です。弊社にとっても、紙器の役割を「商品を包むもの」から「人の行動や記憶を生み出すもの」へと広げるトライアルとなり、その後の企画・構造設計の可能性を切り開く経験となりました。
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